今日は大晦日。大掃除も終えてゆっくりしていたところ、陽が沈むころにインターホンのチャイムが鳴りました。出てみると思いがけない人物です。 「早渚、今いい？」 「橙臣ちゃん！どうしてここに？」 橙臣ちゃんが一人で立っていたのです。彼女の方から訪ねてくるなんて、何かあったのでしょうか。 「住所は弥美から聞いたの。それで要件なんだけど、この間は少し言い過ぎたわ。ごめん。あの後弥美を問いただして、アンタとのこれまでの事を細かく聞いてみたの。アンタが弥美にちょっかい出してるというより、弥美がアンタを振り回してるみたいだから、確かに言うほど変質者じゃないみたいね」 わざわざそれを謝りに来てくれたのか。やっぱり根はいい子みたいです。 「要件はそれだけよ。それじゃ」 そう言って橙臣ちゃんはすぐに帰ってしまいました。私もドアを閉めてリビングに戻ると、またしてもチャイムが鳴ります。 「凪おじさん、やほー」 「桃宮ちゃんいらっしゃ・・・待ってその箱何？」 玄関を出た私の目には桃宮ちゃんの持つ巨大な箱が飛び込んできました。何アレ。 「恋織ちゃんに怒られちゃったー。これまでおじさんを色々振り回してるんだから何かお詫びのお菓子でも持っていきなさいって。なので、じゃーん！ホールケーキ！」 「お菓子っていうかスイーツだね？」 普通は菓子折りとかだろ、そういう場合。しかしこれ受け取らない訳にも行かないよな。 「ありがとう、もらっておくね」 「へへ、来年もよろしくねー！」 ケーキを私に押し付けた桃宮ちゃんは手を振りながら家路につきます。その日は、それからも大勢の来客が我が家のインターホンを押しました。まずはシリアちゃんです。 「カメラマンさん、こんばんは。多分年始は忙しいから、今のうちにフライングで新年の挨拶をしておこうと思って来たわ。あけましておめでとう」 「あー、じゃあ、あけましておめでとう。シリアちゃん、年始も何かあるの？・・・あ、先輩と初詣とかかな？」 「ええ、まあね。後は酔っぱらって夜道をふらふら歩いてる人が増えるかも知れないから、ちょっと見回りって感じかしら」 「あんまり夜歩きしちゃ駄目だよ・・・」 シリアちゃんが宵闇に消えてしまうと、続いてお隣の晶さんと桜一文字さんが訪問してくれました。 「早渚さん、お久しぶりですわ！今月の後半は方々飛び回っておりまして、中々お会いできなくて。新年もご挨拶には伺えないかと思いましたのでその旨伝えに参りましたわ」 「それはわざわざありがとうございます。そうですよね、金剛院グループともなればこういう時はプライベートな時間も極端に少ないですよね」 「だから電話とかメールでいいと思ったんですけどね～、お嬢様がどうしても早渚さんに直接会いたいって言うもので～」 「何ですの桜一文字！貴女だって直前まで鏡の前で身だしなみをチェックしまくっていたくせに！」 「う、うるさいなぁお嬢様は～！・・・あ、やばい時間が！ええと早渚さん、来年もよろしくお願いします。ほらお嬢様、後3分でヘリに乗らないと次に間に合わなくなりますって！」 「ええ、もうですの！？早渚さん、落ち着いたらまた夕食にでもご招待いたしますので！今日はここで失礼させていただきますわ！」 二人が駆け足で屋敷に戻っていくと、数分後に今度は江楠さんがタバコをふかしながら玄関前に現れます。 「やぁやぁ早渚君、千客万来のようじゃあないか？今日の君の家は何かあるのかい？」 「いや、別にそういう訳では。ただ、知り合いの皆が年末や年始の挨拶がてら来てくれてるようで」 「ふぅん、随分とモテるんだねェ、この色男。君が痴情のもつれで刺されたりしたら容疑者の特定が面倒そうだから、出来れば女性関係のトラブルは起こさないでくれたまえよ？」 「・・・善処します」 江楠さんが気取った仕草で片手をひらひらと振って歩き去ると、頭上から翼を羽ばたかせる音が。そんな知り合い幽魅しかいません。 「凪くん、今年はお世話になりました。来年もよろしくねー。ところで今日凪くんの家泊まっていい？」 「いつも勝手に泊ってるじゃん・・・ていうか来年って、幽魅さぁ、成仏する気ゼロだね？」 「だってー、成仏しないで済むならその方が面白そうだし。凪くんと玄葉ちゃんがお亡くなりになるまでは死ねないかなー」 「幽霊はもう死んでるんだよ・・・」 幽魅と一緒に家に入ると、またしてもチャイム。これで今夜は6回目なんですが。予想通り、鈴白姉妹でした。 「早渚さん、年末の夜にすみません」 「凪さん、本年もお世話になりました。来年もよろしくお願いします。ところで今日泊まっちゃダメですか？」 「向日葵ちゃん、大丈夫だよ。もう今夜はお客さんいっぱい訪ねて来たから今更一回増えてもどうって事ないよ。で、瑞葵ちゃん。幽魅とおんなじ事言わない。幽魅はいいけど瑞葵ちゃんは駄目。お父さん心配するよ？」 「ええー幽魅さんばっかりずるいー！私も凪さんと寝たいですー！」 「別に一緒のベッドで寝る訳じゃないよ！」 「瑞葵あんたクリスマスの時の事全然反省してないね？早渚さん、瑞葵はちゃんと連れ帰って監視しておきますんで、安心して年越ししてください」 「ごめん向日葵ちゃん、お願いするよ。二人とも、来年もよろしくね」 銀髪の双子を見送ってリビングに戻ると、玄葉が私のところにやってきました。 「お兄、忙しそうだね」 「うん、知り合った皆が挨拶に来てくれたからね」 「・・・でも、お兄嬉しそうな顔してる。たくさんの良い出会いがあって良かったじゃない」 「・・・そうだね。しかしこうも連続でチャイムが鳴ると、まるで除夜の鐘みたいだね」 私が冗談めかして言うと、玄葉は面白そうに返してきます。 「へぇ、じゃあ来年はあと102人の女の子に手を出すつもりなんだ」 「玄葉、それ私刺されるじゃ済まないよね。みじん切りになるレベルじゃん。・・・さて、夕飯の準備しないと。玄葉、先お風呂入って来なよ」 「え、せっかく・・・じゃなくて、ガス代もったいないから一緒に入らない？」 「今日は幽魅いるから駄目。幽魅は放っておいたら何するか分かんないし」 「・・・それもそうね」 玄葉をお風呂に送り込むと、私は今年の出会いに思いを馳せました。彼女たちとの出会いで今年は楽しかったな。また来年も良い事がたくさんありますように。