玄葉「昨日も今日も閑古鳥、バーチャル古書店『染谷古書堂』店主の染谷紙魚彦です。閑古鳥の皆様、こんそめやでございます。さて、本日の染谷怪談は『放課後の放送室』をお話いたしましょう・・・」 ●放課後の放送室 「ねえI子、こんな話知ってる？『放課後の放送室』って怪談」 「し、知らないよ。怪談って怖い話でしょ？U奈と違って私怖い話興味ないもん」 「じゃあ聞かせちゃるわ」 「なんで！？」 ＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝ この学校の生徒にね、Nちゃんって子がいたんだ。Nちゃんは写真部の生徒で、その日は近くの山の景色を撮影してたんだって。でも夕方になったから部室に戻ってカメラを戻して、教室にカバンを取りに行ったの。もう時間も遅くなってて、教室に行くまで誰ともすれ違わないくらい人が少なくなってたんだって。 「早く帰ろ・・・」 Nちゃんは教室で自分のカバンを持つと、教室を出ようとしたの。そしたら、突然校内放送が入ったんだって。 「Nさん、Nさん。放送室まで来てください。繰り返します、Nさん、Nさん。放送室まで来てください」 Nちゃんはもちろんびっくりしたみたい。いきなり自分が呼び出されて、しかも呼び出し先は職員室とかじゃなくて放送室。変だと思うでしょ。Nちゃんは嫌な予感がして、無視して帰っちゃおうかとも思ったんだって。でも、教室を出て放送室とは反対側、玄関の方に足を向けた途端に、また放送が始まったの。 「Nさん、Nさん。放送室まで来てください。繰り返します、Nさん、Nさん。放送室まで来てください」 まるで自分の行動がバレてるみたいにタイミングよく入った放送に、Nちゃんは怖くなってきたんだって。それからもNちゃんがどうしようか考えていると、何度も何度も同じ内容の放送が入り続けたの。 「な、何かのイタズラ・・・？」 Nちゃんは悪戯かもと思ったみたいなんだけど、それにしてはずっと放送が繰り返されるのおかしいよね。だって悪戯だったら先生が止めに行くでしょ、普通。ずっと同じ内容を繰り返してるなんてうるさいしさ。でも放送が全然止まないわけ。まだ学校に残ってるはずの他の運動部の生徒とかも全然反応してる感じがないしさ。 「あれ・・・？」 その時、不意にNちゃん気付いちゃったんだよね。グラウンドにも誰もいないし、体育館の方からも掛け声や物音がしないって事にさ。まるで、この夕方の学校に自分一人しかいないみたいな、そんな感覚を覚えたNちゃんは背筋が凍ったように震えあがった。 「Nさん、Nさん。放送室まで来てください。繰り返します、Nさん、Nさん。放送室まで来てください」 まだ放送は続いていて、Nちゃんが放送室に来るまではやめないって言わんばかり。Nちゃんは恐怖に震える足で、放送室に一歩ずつ向かったの。 「Nさん、Nさん。放送室まで来てください。繰り返します、Nさん、Nさん。放送室まで来てください」 放送以外に、誰の声もしない校舎内を歩き続けて、ついにNちゃんは放送室のドアの前までたどり着いた。震える手でドアノブを開けて、Nちゃんはそっと放送室の中を覗いたんだって。そして、Nちゃんがそこで見たのは。 「えっ！？」 つい今しがた、ドアノブに手をかけるまでずっと続いていた放送。それを放送してた人が見当たらなかったの。マイクの前には誰も座っていなくて、人の気配がしなかったんだって。Nちゃんは放送室の中に入って人の姿を探したけど、誰も放送室にいないの。 「うそ、そんな・・・どうして？」 困惑するNちゃん。その時、不意にまた放送がかかった。もちろん、マイクの前には誰もいないのに。 「Nさん、Nさん。放送室、ほうそうし、ほうそう、ほうそ、ほう、ほ、ほう、ほうそう、ほうそ、ほうそう、ほ、ほうそ、ほ、ほ、ほうそう・・・」 スピーカーから流れ続ける、とぎれとぎれの声。もうNちゃんの顔は真っ青だった。Nちゃんは放送室を出ようとしたけど、ドアが開かない。パニックになってがちゃがちゃとドアノブを回すNちゃんのすぐ後ろから、不意に声がした。放送じゃない、感情のない肉声。 「Nさんを、包装します」 ばっと振り向いたNちゃんの目に映ったのは、白衣を着た人影。そして、すぐにNちゃんの視界は分厚いビニール袋に覆われたんだ。 「むーっ！？」 Nちゃんは暴れたけど、Nちゃんの全身はビニール袋に入れられて、しかも袋からは布団圧縮袋みたいにどんどん空気が抜けていく。分厚い袋には爪を立てても穴を開けられなくて、Nちゃんは息が出来なくなったんだって。そのうちNちゃんの全身から力が抜けて、Nちゃんは動かなくなった。 その日以来、Nちゃんの姿を見た人はいないんだって。 ＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝＝ 「そんな話。I子、どう思う？」 「あ、ありえないから。だってNちゃんしか学校にいなかったなら、その話は誰が目撃して噂になったのか分からないし！あと、そんなにうるさく放送してたら先生が気付かないはずないから！」 「私が思うには、これ可能性二つあるかなって。一つは、この放送はNちゃんにしか聞こえてなかった説。でもこれは可能性薄いかな。私としては、最初の放送の時点でNちゃんは現実の学校とは違う、霊たちの世界に迷い込んじゃったんじゃないかなって思う」 「非科学的だよ！そ、それに放送と包装をかけたオチもダジャレみたいで変だし」 「あれ、I子知らない？この学校が建つ前、ここって食品工場だったんだってさ。でも火事で全焼して、従業員が一人犠牲になってるの。それで、ここがちょっと面白いんだけどさ。その従業員、真空パックする機械の担当だったんだって。で、その人が亡くなった後、自宅アパートを大家さんが片付けようとしたら、部屋から虫や小動物を真空パックしたものがいっぱい出てきたらしいよ」 「ひっ・・・なにそれ、気持ち悪い」 「全部日付とか書いてあって、多分コレクションだったんだろうって。・・・ちなみにね、工場の中でその人が働いてた真空パック機のあった部屋って、今の放送室のところらしいよ」 「で、出来過ぎよ。U奈の作り話でしょ？」 「そう思う？ならさ、今日の放課後一緒に放送室に行ってみない？」 「な、なんで！？嫌よ、そんなの！」 「作り話だと思うなら別にいいじゃん？何も起きないって事でしょ」 「そ、それはそうだけど・・・」 「よし決まり、じゃあ放課後、部活終わったら教室に集合ね」 「うう・・・」 その日、二人の女生徒は家に帰ってこなかった。 玄葉「いかがだったでしょうか。当チャンネルは比較的ショートなオリジナル怪談『染谷怪談』の他、既存の怪談朗読配信、ホラーゲーム実況、雑談配信等を提供しております。恐怖の世界を垣間見たいあなたは、当店に集う閑古鳥の一羽となる素質がおありのようです。チャンネル登録及び高評価にて応援いただければ幸いです。またのご来店をお待ちしております」 凪「配信終わった？お茶淹れておいたからね」 玄葉「ちょっ、兄上！まだ小生配信を切っておりませんので！」 凪「あっごめ」（マイクがオフになる）