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タピオカ・ファンタジー ~その言葉、森にはありません~

2025-09-05 01:11:00

NovelAI

2025-09-05 01:11:00

NovelAI

12

対象年齢:全年齢

デイリー入賞: 140 位

参加お題:タピオカ
ゴブリンの巣を潰した帰り道だった。返り血と泥に汚れた鎧を軋ませながら、ドワーフの戦士ガンロックは無言で歩いていた。彼の隣では、エルフの女戦士パーリエが、まるで汚物でも払うかのように、自身の銀の髪についた木の葉を指先で弾いている。彼女の鎧はほとんど汚れていない。後方で魔法を撃っていただけだからだ。 「はぁ……疲れましたわ。こういう肉体労働の後って、甘いものが欲しくなりませんこと?」 唐突にパーリエが歌うように言った。ガンロックは眉間の皺をさらに深くする。 「肉体労働をしたのは俺とドワーフ傭兵団の連中だけだ。お前は後ろで火の玉を投げていただけだろうが」 「あら、魔力を使うのだって立派な労働ですわよ。それよりガンロック、この後、王都でタピりに行きましょうよ」 「……たぴる?」 ガンロックは、つるはしで岩を砕くような顔でパーリエを見た。 「そんな言葉はドワーフ語にも共通語(コモン)にも存在しねえ。第一、動詞として意味が成り立たん」 「もう、野暮ですわね。意味が伝わればいいじゃない」 「さっぱり伝わらん!」 ガンロックが吠えると、パーリエは心底呆れたというように溜息をついた。 「だからドワーフは色気がないって言われるんですのよ。いいこと? 今、王都のヒューマンたちの間で大流行している飲み物があるの。それを飲みに行くことを『タピる』って言うのよ。最新の流行りなの!」 「そうなのか……」 ガンロックは釈然としない顔で唸った。流行りだの最新だのという言葉は、数百年変わらない伝統的な鍛冶場で育った彼にとって、最も縁遠い概念だった。 「して、その『たぴおか』とやらは、一体どんな飲み物なんだ」 「飲み物であり、食べ物でもありますわ。その歴史は古くてよ」 パーリエは得意げに胸を張り、人差し指を立てた。 「遥か東方の、地図にも載っていないような温暖な島国で生まれた奇跡の一杯……それがタピオカミルクティー。原材料は『キャッサバ』という芋の澱粉。それを丸めて茹でると、黒くて、それはそれは、もちもちとした食感の珠(たま)になるんですの」 「芋……」 「そう、芋よ! その黒い珠を甘いミルクティーに入れたのが始まり。なんでも、ある茶店の店主が、会議で退屈しのぎにデザートの珠をアイスティーに入れてみたのがきっかけだとか。偉大な発見はいつも偶然から生まれるもの。うふふ、恋と一緒だな」 パーリエはうっとりと目を細めた。その姿は戦場で敵を焼き払っていた姿とは似ても似つかない。 「恋ねえ……」 ガンロックは、自身の無骨な斧の柄を撫でながら、苦々しく呟いた。 「その文化は海を渡り、特に『ニホン』と呼ばれる極東の国では、何度も社会現象になるほどの爆発的な流行を見せたそうよ。まあ、飲み終わった後の容器を道端に捨てる不届き者が続出して、社会問題にもなったらしいけど。美味しいものの前では、そんなの些細なことですわよね!」 「いや、些細なことじゃねえだろ」 ガンロックのツッコミも、パーリエの耳には届いていない。彼女の頭の中はすっかり黒い珠のことでいっぱいらしかった。 王都の目抜き通りに、その店はあった。『黒真珠の泉』と洒落た看板が掲げられ、店の前には長い行列ができている。そのほとんどが若いヒューマンの男女だ。屈強なドワーフと、森から出てきたばかりのような美しいエルフの組み合わせは、明らかに浮いていた。 「うわあ、すごい列……でも、並んででも飲む価値がありますのよ」 三十分ほど並んで、ようやく二人の番が来た。メニューには呪文のように難解な言葉が並んでいる。 『黒糖パールミルク』『濃厚ウーロンミルクティー』『チーズフォーム乗せ』……。 「わたくしは、黒糖ミルクの氷少なめ、甘さマシマシ、タピオカ3倍でお願いするわ!」 パーリエが流暢に注文する。ガンロックはわけがわからず、とりあえず一番上に書かれていた『黒糖パールミルク』とやらを頼んだ。 透明な容器を受け取ると、底には黒いビー玉のような粒がぎっしりと沈んでいる。パーリエは太いストローを勢いよく突き刺し、一口吸い込んだ。 「んんーっ、これこれ! このもちもち感と濃厚な甘さが、疲れた体に染み渡りますわあ……!」 幸せそうに頬を緩めるパーリエを見て、ガンロックも恐る恐るストローを口にした。ずぞぞ、と音を立てて液体と共に、つるりとした塊が口の中に飛び込んでくる。 「なっ……!?」 驚いて噛むと、ぐにり、もちり、とした不思議な歯ごたえ。そして黒糖の濃厚な甘みと、ミルクティーのまろやかな香りが口いっぱいに広がった。 「……ふん。悪くねえ。この黒い球、腹にたまるな」 ぶっきらぼうに言いながらも、ガンロックの飲むペースは明らかに速くなっていた。 「そうでしょ? トッピングを選ぶ時間って、最高に幸せよね。選択肢が多いのは悩ましいけど、それがまたいいのよ。恋と一緒だな」 再び始まった恋の話に、ガンロックは心の底から叫んだ。 「……冗談、顔だけにしろよ」 美しいエルフの顔がなければ、ただの食い意地が張ったわがまま娘だ。まあ、美しい顔があるからこそ、たちが悪いのだが。 二人はしばし無言で、王都の喧騒を背景に、異国の甘い飲み物をすすった。仲が悪い二人が唯一、穏やかな時間を共有できる瞬間だった。 翌日。 ドワーフたちが集う、王都の巨大な鍛冶場。鉄を打つ甲高い音と、汗の匂いが立ち込めている。 昨日のゴブリン退治の報酬を受け取り、懐が温かくなったガンロックは、上機嫌で同僚のドワーフ、ボルツに声をかけた。彼は昨日覚えたばかりの、あのクールな言葉を使ってみたくてたまらなかったのだ。 「よう、ボルツ。仕事が終わったら一杯どうだ」 「おう、ガンロック。ギルドご用達の酒場に行くか?」 「いや」 ガンロックはニヤリと笑い、ドヤ顔で言い放った。 「タピオカを、タピりに行こうぜ」 ボルツは、真っ赤に焼けた鉄塊を見るような目でガンロックを睨みつけた。そして、昨日パーリエに言ったのとまったく同じセリフを、地響きのような低い声で言った。 「……たぴる? そんな言葉はドワーフ語にも共通語(コモン)にも存在しねえが」 (続く。) 遥か天空より見下ろせば、王都の喧騒は、まるで職人が丹精込めて作り上げた巨大な絡繰り時計のようでございます。煉瓦造りの家々を縫うように人々が行き交い、その手には一様に、黒き真珠を宿した杯が握られております。古き伝統と新しき流行が交差する街角で、エルフが見た甘い夢のかけら、あるいはドワーフが覚えたての拙い言葉は、蒼穹を渡る風に乗り、まだ見ぬ誰かの物語へと運ばれてゆくのでしょうか。夜の帳が世界を包み込む前の、ほんのひととき。街は、甘く、そしてちょっぴり不可解な香りに満たされていくのです。

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Epimētheus
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コメント

投稿
五月雨

2025-09-05 22:38:09
返信
へねっと

2025-09-05 22:10:36
返信
謎ピカ

2025-09-05 09:45:49
返信

1255投稿

-フォロワー

Thank you for your nice comment. I'm getting busy and cutting back on my activities. I'm sorry if I couldn't reply.

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