休みの日、気晴らしにスケボーで遊ぼうと公園に来た。ここにはスケートボードやローラースケートで遊ぶために舗装された一角がある。アタシは兄貴の影響でスケボーを始めたけど、風を切る感覚が好きだ。この調子じゃ、多分高校生になったらバイクの免許も取るだろう。 「おらよっ！」 今日は暑さのせいか、あまり人も多くない。まあそりゃそうだ、わざわざ日差しに加えて放射熱が溜まるこのエリアに来るなんて、相当覚悟の決まった奴かドMだ。アタシも手荷物の中にはちゃんと飲み物は用意してきてる。 「っと！」 着地際にちょっと足の位置をミスって、ボードが明後日の方向に飛んでった。追いかけていくと、小柄な奴がアタシのボードをひょいと拾ってくれた。 「悪ぃな・・・って、サイバじゃねーか」 「赤羽さん、こんにちは。えへへ、たまたま見かけたから来ちゃった」 隣のクラスの羽佐美サイバ。こう見えて男・・・なんだが、タータンチェックのキャスケットに膝丈のソックス、短めのカーゴショーツに加えて、白Tシャツの上から薄黄色のキャミソールを合わせてやがる。男子のファッションセンスじゃねーだろ！ 「テメェ喧嘩売ってんのか・・・」 「いきなり何！？」 こっちの色気も何もないファッションを煽ってるとしか思えない対比になってんだよ。 「休みの日にまで女子力をアピールしやがって。男らしくなりたいなら服から何とかしろや」 「だって僕、そんなお金ないもん・・・これもお母さんのお下がりだし」 家庭の事情か・・・それじゃ強く言えねーな。まぁ、だったらせめてスケボーでもやらせてやるか。 「サイバ、スケボーやってみるか？アタシのボード貸してやるよ」 「え、いいの？僕一度も乗った事ないけど出来るかな・・・？」 見てる限り、サイバはそう運動神経の悪い方じゃない。多分すぐに出来るようになるだろ。 「とりあえず乗ってみろ。乗りもしねぇ内から出来るかどうかなんて分かんねーし」 「うん、分かった。ありがとう」 そのままサイバは平地でボードに乗り始める。思った通り、すぐに順応した。けど、やっぱスケボーは跳んでナンボだ。 「サイバ、アール使ってみろ。とりあえず勢いつけて登れ」 「う、うん！」 近くにあったアールを指差すと、サイバは思い切りよく助走をつけてアールに入った。そのまま上まで・・・行ったは行ったが、上で立ち止まらず空中に跳んだ。いきなりかよ！ 「オイ！？初心者がいきなりは」 「えっ、違うのぉ！？」 サイバは空中で体勢を変えて、再びアールに着地。そして勢いよくアタシに突っ込んできた。 「げっ」 「むぎゅ！」 アタシの方が体格がいいから、受け止めるのはできた。・・・問題はサイバの両手がアタシの両胸を鷲掴みにして、顔面を谷間に埋めてるとこなんだよなぁ。 「オイ・・・テメェちょっと可愛いからって何しても許されると思うなよ」 「ご、ごめん赤羽さん！ぼ、僕てっきり登れって言われたから、テレビでやってる人たちみたいに空中でトリック決めて戻ってこいって事かと思って」 いや謝るのはそこじゃねーんだわ。パニックになってアタシの胸ふにふに揉んでるのを謝罪して欲しいんだわ。 「とりあえず、ぶん殴られたくなかったら胸から手と顔離せ」 「あっ、ご、ごめん」 ようやくサイバが離れてくれた。こいつ、獅子島や音無が言うには不幸体質らしいけど、ラッキースケベをしてる分の差し引きがそっちに行ってるんじゃねーのかな。 「おーい瞳子ー。暑さで倒れてないかー？」 「あ？兄貴が来たか」 「お兄さん？」 スケボーセクションに兄貴がやって来た。どうやらアタシの心配をして様子を見に来たらしい。過保護なこった。 「お、そっちの子は？」 「こいつ？こいつは羽佐美サイバって言ってアタシの・・・」 アタシの・・・何だ？友達って言ってもいいのか？まだ一緒に花火くらいしかまともな遊びやってねーんだけど。・・・いや、面白い事思いついた。 「アタシの女子友」 「赤羽さん！？」 サイバが目を白黒させる。兄貴は嬉しそうに微笑んだ。 「羽佐美ちゃん、めちゃ可愛いな」 「だろ？」 「お兄さんまで！？」 まんまと兄貴はサイバが女子だと思い込んだらしい。この顔立ちと服装じゃ無理もねぇけど。兄貴は少し姿勢を低くしてサイバに話しかけた。 「瞳子と仲良くしてくれてありがとな。こいつ、背が高いしガサツだから女子に怖がられててさ、あんまり友達といるとこ見た事無くて心配してたんだ。羽佐美ちゃんみたいな可愛い女の子が仲良くしてくれてて安心したよ。羽佐美ちゃん、瞳子の事怖かったりしない？」 「は、はい。赤羽さんはちょっと誤解されやすいけど、本当は器が大きくて優しい女の子だと思います」 サイバの奴、僕は男子ですって言うタイミング逃したな。どうしよう、って顔でこっちをチラチラ見てくる。面白いから訂正しないけどな。 「兄貴、ちょっとサイバのスケート見てやってくれよ。アタシその間休憩するわ」 「おう、いいぞ」 スポドリを飲みながら二人の様子を見る。サイバはさっきと同じようにアールを使ってジャンプした。で、やっぱり全く同じように兄貴に向かって突っ込んでいく。 「あぶねっ」 「わわわっ」 避けようとした兄貴と、避けようとしたサイバが同じ方向に移動。鏡写しみたいに動いた二人は見事にぶつかり、そのまま地面に転がった。 「・・・って、すまん！」 「えっ、あっ」 ・・・兄貴がサイバの胸に手を置く形になってる。慌てて起き上がる兄貴と、そっと自分の胸を手で押さえるサイバ。兄貴は勢いよくサイバに頭を下げる。 「すまん、本当にすまん！」 「あっ、いえ・・・僕の方こそ、なんかすみません・・・」 こっちをちらっと見ながら兄貴に謝るサイバ。サイバ的には『アタシが女の子だと紹介したせいで兄貴に余計な罪悪感与えてしまった』と思ってこっちを見たんだろうが、兄貴はそうは思わなかったらしい。 「いやいや、そんな事無いって！確かに瞳子と比べたらがっかりおっぱいかも知れないけどさ、大事なのは俺が君のおっぱいを触っちゃったって事であって、それは俺が全面的に悪いしマジで申し訳ないと思ってるけど、本音を言うと滅茶苦茶ドキドキしたから羽佐美ちゃんの胸はそんな卑下するようなものじゃ」 「死ねクソ兄貴！」 アタシの蹴ったスケボーがきりもみ回転して兄貴のこめかみに直撃した。吹っ飛ぶ兄貴、唖然とするサイバ。兄貴の野郎、サイバが自分の胸の小ささを気にして『つまらないものを触らせちゃったから』って意味で謝ったと勘違いしやがったな。なんか無性に腹が立つわ。 「ちょ、ちょっと赤羽さん！？お兄さんすごい吹っ飛んだよ！」 「構わねぇよ、どうせすぐ復活するから。サイバ、あんなエロ兄貴放っといて行こうぜ。アイス奢ってやるよ」 スケボーセクションを後にするアタシと、倒れてピクピク痙攣する兄貴をしばらく見比べていたけど、サイバは小走りにこっちについて来た。 「お兄さん、この暑さの中で倒れてるのに大丈夫かな」 「兄貴はクソ頑丈だから。あの程度ならあと十秒もしない内に生き返る」 そう話しながら歩き続けるアタシたち。実際、直後に兄貴からは「羽佐美ちゃんにお詫びするって言っておいて」ってメールが来た。