閃光のミラージュ【静かな午後、チャイの香り】
2025-12-13 10:00:12
対象年齢:全年齢
参加お題:チャイ
窓から差し込む昼下がりの光が、カフェの木目をやさしく照らしていた。
劉妃は静かな席に腰を下ろし、白磁のカップへとゆっくり紅茶を注ぐ。
立ちのぼる湯気に、ほんのりと混じるスパイスの香り――チャイ。
この店でそれを見つけた瞬間、彼女の胸に小さな驚きが走った。
珍しい。けれど、どこか懐かしい。
砂糖を少しだけ落とし、スプーンで静かに混ぜる音が、午後の時間に溶けていく。
カップを口元へ運ぶと、甘さの奥に残る刺激が、思考をほどいた。
任務の合間でも、誰かを探るためでもない。
ただ“劉妃”として、味わう一杯。
窓際に頬杖をつき、外を行き交う人々を眺める。
忙しさの影に隠れていた心が、少しだけ軽くなるのを感じた。
彼女は微笑み、もう一口―チャイの温度を確かめる。
(こんな時間が、また来ればいい)
やがてカップは空になり、余韻だけが残る。
穏やかな香りと、静かな満足感。
それは次の一歩へ向かう前の、ささやかな休息だった。
劉妃はそっと立ち上がり、窓に映る自分に一度だけ目を向ける。
午後はまだ続く。
けれど、このチャイの記憶が、彼女の歩みをやさしく支えてくれるのだった。
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