藍引島の赤い絆と黒い影
2025-12-18 12:32:35
Gemini
Gemini
対象年齢：全年齢
参加お題：毛糸玉
第一章：軍曹の「練習」
基地の休憩室、ストーブが燃える音だけが響いていた。富士見軍曹は、眉間に深い皺を寄せながら、猛烈なスピードで編み棒を動かしている。
「……軍曹、それ、何ですか？」
若菜少尉がスマホを片手に、ニヤニヤしながら覗き込む。
「……練習です。指先の精密動作訓練になります。ほら、出来た」
放り出されたのは、地味なオリーブドラブ色の毛糸で編まれた、だが驚くほど目が揃った指ぬきグローブ。
手の甲には、軍曹の照れ隠しか、小さな花の刺繍が一つだけ施されていた。
「わあ！軍曹の手袋、暖かそうですね。しっかりしていて。それなのにちょっとかわいいデザインに見えるのがいいです」 じーっと見つめるブロント少尉の瞳は、すでに獲物を狙うそれだった。
「ふふふ、ブロント少尉が付けたら広報的にも楽しいかも」 若菜の悪魔の囁きに、軍曹は溜息をつく。
「……、しょうがないですね。練習で作ったやつだからあげますよ」
「やった～！」
ブロント少尉の満面の笑みに、軍曹は「実用品としての評価なら受けて立つ」と小さく呟いた。
第二章：南方の雪原
数日後。一行は南方の訓練島・藍引島（アイピク島）にいた。
見上げる先には、南国のヤシの木と白銀の雪渓が共存する、この島特有の異様な光景が広がっている。
「いいですか諸君！ここを雪崩の危険地帯と想定してください。横断するということは、死を誘発することと同じ！」
助教として立つブロント少尉の手には、あの軍曹の手袋がはめられていた。
その指先が、懐から鮮やかな「赤い毛糸玉」を取り出す。
「雪崩に巻き込まれても、この糸を引いていれば救助の目印になる……かつてナポレオンがアルプスを越えた際、現地の賢者に教わった秘術である！」
（「……それ、一昨日私が教えたデタラメなんですけどねｗ」） 離れた場所で通信機を握る若菜少尉が、こっそりほくそ笑む。
ブロント少尉は凛とした表情で赤い糸を雪の上に伸ばし始めた。
訓練生たちがその「歴史的秘術」に息を呑んだ、その時だった。
第三章：黒い追跡者
赤い糸が雪原に描く軌跡を、猛スピードで追いかける黒い影があった。
基地から密航してきた黒猫、ケティである。
「おや、ケティちゃん？」
通常、猫は糸を引っ張って散らかすものだ。
しかしケティは違った。
彼女は伸ばされた赤い糸を、前足で器用に、まるで熟練の職人のように「くるくる」と丸め直しながら付いてくるのだ。
「あ、こら、ケティちゃん！それ玩具じゃないからね！」
せっかくの「ナポレオン直伝（自称）」の目印が、みるみるうちに元の毛糸玉に戻っていく。
ブロント少尉は慌てて引き返し、雪にまみれて夢中で毛玉を転がすケティを、毛玉ごとひょいと抱き上げた。
「もう……訓練中なんですよ？」
困ったように眉を下げつつも、腕の中の温もりを愛おしそうに見つめるブロント少尉。
軍曹の手袋の感触と、ケティの柔らかな毛並み。
「……でも、まあ。今日は何事もなさそうだから、いいですね」
冷たい雪風の中、少尉の微笑みだけが、春のように暖かく周囲を照らしていた。
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