「AIピクターズ」AIイラスト・小説投稿サイト

リニューアル版の作品ページはこちら

ログインすると、いいねに応じたおすすめ表示や、画像生成機能が利用できます!

新規登録/ログイン

ブックマーク

最後の一本

2026-05-28 11:59:19

NovelAI

2026-05-28 11:59:19

NovelAI

42

対象年齢:全年齢

デイリー入賞: 34 位

参加お題:花火
 藍引島の市場は、今日も妙に湿っていた。  海霧のような白い靄が石畳を這い、初夏だというのに、遠くの山脈にはまだ白い雪が残っている。 「……相変わらず変な島だな」  革鎧の冒険者が肩をすくめた。  未到達地帯調査。  王都から出た依頼としては悪くない報酬だったが、目的地は島中央部の山岳地帯。最近は天候が不安定で、帰ってこない探索隊も出ている。 「その割には、妙に賑やかだけどな」  仲間が顎をしゃくる。  市場の隅。  そこだけ妙に“地球側”の匂いがした。  古びた木造店舗。  軒先にぶら下がる裸電球。  色褪せたブリキ看板。  そして――。 「……なんだあれ」  冒険者たちは、並んだ白い箱を見上げた。  人の背丈ほどの、不思議な金属箱。  内部には透明板越しに様々な品物が並んでいる。  水筒ほどの金属筒。  奇妙な紙包み。  小型の缶詰。  固形燃料。  毛布。  鉛筆。  手帳。  干し肉。  湯沸かし器具。  妙な機械だった。 「自動販売機だよ~」  横から声が飛ぶ。  狐耳を揺らしながら、ダキニラがにやにや笑っていた。  腰の革袋を揺らし、手には雑な板切れ。  そこには汚い字で、 『10ギム→100円×9』 『500円歓迎』 『自販機用』  などと書いてある。  さらに丸い銀貨の絵と、よく分からない地球硬貨らしき絵。 「……怪しいな」 「失礼だなあ。適正レートだよ? 輸送費込みで」  ダキニラは、うぷぷ、と笑った。 「この島、本土より高いんだから」  確かに、自販機の値札は高かった。  黒い苦い飲み物の缶が三百円。  保存用スープも高い。  だが、山へ入る前の緊急補給として考えれば、悪くない。 「……こっちの世界、妙なもん作るな」  冒険者の一人が缶詰を持ち上げる。 「でも便利そうだ。夜でも買えるし」 「まあな。市場閉まった後の命綱だよ」  ダキニラは肩をすくめた。 「チェルキーさんが中身考えてるから、意外と外れ少ないし」  並んでいる品は妙に実用的だった。  水。  塩。  缶スープ。  保存食。  固形燃料。  銀毛布。  冒険者が本当に困る物だけが入っている。 「……なるほどな」  そう呟いた時だった。 「おっ、そっち気になるかい」  店の奥から、しわがれ声。  小さな駄菓子屋のばっちゃが、箱を抱えて出てきた。 「なんだそれ」 「花火じゃよ」  差し出されたのは、色の派手な紙包みだった。 「祭りの売れ残りじゃ。湿気っとるかもしれんがな」  冒険者たちは顔を見合わせる。 「……火薬か?」 「遊び道具だよ」 「去年のか?」 「何年前だったかねぇ」  ばっちゃは笑った。  背後の壁には、色褪せた古いポスター。 『藍引島納涼花火大会』  夜の海。  提灯。  打ち上げ花火。  端はめくれ、色も抜けていた。 「飯買ってくれるならタダでやるよ」 「まあ……もらっとくか」  冒険者は苦笑しながら花火を受け取った。 「何かの役に立つかもしれんしな」  その時は、誰も本気でそう思っていなかった。 ◇  吹雪は、突然来た。 「おい待て! 視界が消えた!」  稜線に出た瞬間だった。  白。  風。  雪煙。  地面と空の境目が消える。 「足跡が飛ぶぞ!」 「岩陰へ!」  初夏のはずだった。  だが藍引島の山は、季節の理屈を時々忘れる。  数時間後。  冒険者たちは岩陰で震えていた。  濡れたマント。  凍る指。  減る体温。  風が唸る。 「……まずいな」  誰かが呟く。  その時。 「待て」  花火を持っていた冒険者が顔を上げた。  雲の裂け目。  遠く。  小さく。  何かが飛んでいた。 「……鳥?」 「違う」  別の冒険者が目を見開く。 「飛空艇……いや」  回転翼。  黒い影。 「地球のヘリコプターだ!」  全員が立ち上がる。 「見えてるか!?」 「距離が遠すぎる!」 「信号だ! 火を!」  だが風が強い。  マッチが死ぬ。  火が消える。 「くそっ……!」  岩陰に身を寄せ、冒険者は震える手でマッチを擦った。  ジジッ。  小さな火花。  消えかける。 「頼む……!」  仲間が身体で風を遮る。  火が導火線へ触れる。  湿った紙から白い煙。  一瞬、止まり――。  ボッ!!  赤い火が走った。 「行けぇっ!!」  ロケット花火が吹雪を裂き、夜空へ飛んだ。 ◇ 「――発光確認」  ヘッドセット越し。  静かな声が機内に響く。  ブロント少尉だった。  黒い軍服。  黒ミニプリーツ。  金髪ポニーテール。  いつも通りの格好なのに、その目だけが鋭い。  吹雪の向こう。  赤橙の小さな火。 「Dragon-One to Ground Rover. Flare confirmed. Repeat, flare confirmed.」 『Copy that. Moving in.』  富士見軍曹の声が返る。  少尉は窓の外を睨んだ。 「……見つけました」  いつものふてぶてしい笑みはなかった。 ◇  雪煙を巻き上げ、軍用ジープが斜面を駆け上がる。  ハンドルを握る富士見軍曹は完全防寒装備だった。  黒軍服の上から厚手ジャケット。  ゴーグル。  防寒手袋。  それでも小柄な体は微動だにしない。 「前方、岩陰。三時方向」 「うん、匂いするクマ」  プーにゃんが平然と答えた。  毛皮付き青ワンピース姿のまま、吹雪の中で荷台に普通に立っている。  銀髪が風に踊る。  どう見ても寒そうなのに本人だけ平気だった。  後部ではチェルキーがロープと毛布を準備している。 「凍傷一歩手前でしょうね。急ぎますよ」  緑髪ポニーテールの小柄な神官戦士は、荷台の固形燃料箱を叩いた。 「温かい物ありますから」 「その前に助けるぞ!」  ジープが最後の斜面を乗り越えた。 「いたぞ!!」 ◇  夜明け前。  市場の隅。  自販機の白い灯りが、静かに石畳を照らしていた。  冒険者たちは銀毛布に包まりながら、固形燃料の火で缶を温めている。  湯気が立つ。 「……この黒い飲み物、妙にうまいな」 「苦いけどな」 「温かいだけでありがたい……」  誰かが笑った。  自販機の脇には、使い終えた花火の筒が立てかけられている。  富士見軍曹はジープにもたれ、缶を片手に空を見上げた。  チェルキーは缶スープを配って回っている。 「塩分も取ってくださいねー」  プーにゃんは毛布に埋まりながら、なぜか一人だけ元気だった。  そしてダキニラは、自販機の横でうぷぷと笑う。 「だから言ったでしょ~? 役に立つって」  白い自販機が、静かに唸る。  そこに並ぶのは、派手な贅沢品ではない。  水。  スープ。  燃料。  毛布。  小さな文明の欠片。  けれどその夜、それは確かに人の命を繋いでいた。

ログインするとプロンプトなどがチェックできます

※ 作品によっては掲載されていないことがあります

新規登録/ログイン
さかいきしお
一覧をダイアログでみる

コメント

投稿
ガボドゲ

2026-05-30 15:36:31
返信
さかいきしお

2026-06-08 21:50:42
返信
たぬ仮面

2026-05-29 19:50:37
返信
さかいきしお

2026-06-08 21:50:36
返信
クマ×娘 D.W

ナイス 救出劇🧸👍

2026-05-29 19:18:07
返信
さかいきしお

運が良かった、いや、運だけじゃないですな

2026-05-30 01:58:58
返信
Ken@Novel_ai

2026-05-29 05:35:06
返信
999fun

2026-05-29 00:37:59
返信
早渚 凪

ばっちゃにはきっと、未来が見えていたんだ

2026-05-29 00:18:37
返信
さかいきしお

運とは時に目に見えることもありますな……

2026-05-30 01:56:30
返信
ゆのじ

2026-05-28 23:40:47
返信
guest

2026-05-28 23:14:05
返信
よ~みん

2026-05-28 20:55:18
返信
翡翠よろず

2026-05-28 20:00:10
返信
ippei

2026-05-28 19:48:28
返信
サントリナ

2026-05-28 19:41:50
返信
うろんうろん -uron uron-

2026-05-28 19:25:09
返信
しるばん

2026-05-28 19:17:29
返信
なおたそ

2026-05-28 18:07:43
返信
kacky333

2026-05-28 14:41:59
返信
白雀(White sparrow)

2026-05-28 12:35:07
返信
みやび

荷物袋の中から起死回生の一手を引き出すのは冒険者の腕の見せ所じゃな!

2026-05-28 12:28:16
返信
さかいきしお

冒険者は直感本能で最適を引き寄せますぞ。 できない冒険者は……

2026-05-30 01:55:35
返信
えどちん

2026-05-28 12:17:06
返信
Anera

2026-05-28 11:59:46
返信

1184投稿

-フォロワー

前後の作品

提携広告

シリーズ

おすすめタグ

    新着作品