七夕ヘッドプレス ~天の川作戦・続~
2026-07-07 05:13:15
対象年齢:全年齢
参加お題:七夕
七夕の夜。
藍引島の空には、都会では考えられないほどの満天の星が広がっていた。
丘の上で、賢者の学院スカウト科助教シャーリーが、いつもの胡散臭い笑みを浮かべながら夜空を見上げる。
「ふひひ。この藍引島では王都とは星の並びが少々違いましてな。」
隣ではチェルキーが目を輝かせた。
「そうなんですか?」
「ええ。ですが、星に神話を見立てる文化は共通ですぞ。」
シャーリーは天の川を指差す。
「あちらがベガ。そしてこちらがアルタイル。」
夜空では二つの星がひときわ明るく輝いている。
チェルキーは首を傾げながら、星空をじっと見つめた。
「うーん……。」
「何か見えますかな?」
「えっと……。」
チェルキーは少し考え込む。
「何となく、あの辺に将軍さんで、この辺に格闘家さん……でしょうか?」
その言葉に合わせるように、チェルキーの頭の中では、ベガは赤い軍服と赤いマントをまとった麗しき女将軍に、アルタイルは腕を組んだ屈強な格闘家として思い描かれていた。
もちろん、本当にそんな星座が浮かんでいるわけではない。
ただ、星を見上げるチェルキーの素直な想像力が、そういう姿を描いただけである。
シャーリーは楽しそうに笑う。
「ふひひ。見立てというものは、人それぞれでございますな。」
「なるほどですね。」
その時だった。
ふっ……
満天の星空の隅を、巨大な黒い影が横切る。
鳥……ではない。
翼を広げれば夜空を覆い尽くしそうな、不吉な影。
チェルキーが目を丸くする。
「……あれ?」
影は一直線にこちらへ近付いてくる。
近付くにつれ、プロペラ音が聞こえた。
ドドドドドドド……
黒い影の正体は、一機の軍用ヘリだった。
シャーリーが空を見上げる。
「ふひひ……あの高度で何を――」
ガラッ。
ヘリのドアが開く。
赤い軍帽。
赤いマント。
赤い軍服。
そして金髪ポニーテール。
「――発見!」
ブロント少尉だった。
彼女は迷いなく機外へ飛び出す。
「七夕ヘッドプレス!!」
空中で身体がぴたりと静止する。
両脚を揃え、両腕を胸の前で組む。
まるで、どこかの格闘ゲームで見た必殺技そのものだった。
シャーリーは青ざめる。
「……少尉殿?」
「ベガ将軍直伝であります!!」
「いや、それは――」
ドゴォォォォン!!
見事なヘッドプレスが、シャーリーの頭上へ炸裂した。
「ぶへら~~~~っ!?」
土煙が夜空へ舞い上がる。
チェルキーは半泣きで駆け寄った。
「シャーリーさんーーー!!」
しばらくして。
もくもくと立ち上る砂煙の中から、一人の女性がゆっくり姿を現した。
シャーリーだった。
制服は少し土埃をかぶり、長い黒髪も少し乱れている。
しかし、それだけだった。
肩の埃を軽く払いながら、いつものように笑う。
「……ふひひ。」
チェルキーが駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ええ。この程度で倒れていては助教は務まりませんぞ。」
ブロント少尉は満足そうに敬礼した。
「ベガ将軍直伝・七夕ヘッドプレス、大成功であります!」
シャーリーは夜空を見上げる。
天の川の向こうでは、ベガとアルタイルが静かに輝いていた。
「少尉殿。」
「何でありますか。」
「そのベガは、将軍ではなく星の名前ですぞ。」
ブロント少尉は一瞬だけ考え込む。
「……つまり。」
「つまり?」
「ベガ将軍の本拠地でありますな!」
シャーリーは苦笑し、チェルキーは頭を抱えた。
「違いますー!」
満天の星空の下。
今年もまた、ブロント少尉だけは七夕の神話を少しだけ勘違いしたまま、誇らしげに天の川を見上げていた。
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サイコクラッシャーしそうな少尉
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