ボス
2026-10-16 00:11:08
対象年齢:全年齢
参加お題:ボス
新聞社の編集長室。
壁際には書棚が並び、机の上には新聞、取材資料、写真の束が山と積まれている。
その奥で、サングラスをかけた顎ひげの男が、届いたばかりの新聞に目を通していた。
「おお、我が妹。よく来たな。飯でも食うか」
顔を上げた男に、シャーリーはいつもの胡散臭い笑みを浮かべる。
「ふひひひ、我が兄上。今日はお友達の料理の先生と道連れですぞ~」
「お邪魔します!」
緑髪のポニーテールを揺らし、チェルキーが元気よく頭を下げた。
「おう、ゆっくりしていけ。ちょうど昼時だ」
「ふひひ、さすが兄上。話が分かりますな~」
「……お前、飯を食いに来ただけじゃないだろうな?」
「さて、何のことでしょうな?」
シャーリーは涼しい顔で笑った。
男は小さく息を吐き、手元の新聞を畳んだ。
そのときだった。
バタンッ!
勢いよく扉が開き、茶色の長い髪と狐の尻尾を揺らした少女が飛び込んできた。
「ボス~! 特ダネ掴んできたよ~!」
革ジャンにミニスカート。下町を駆け回る新聞記者、ダキニラである。
「あれ? シャーリーにチェルキーさんもいたんだ?」
「おや、ダキニラ。今日も元気ですな~」
「うぷぷ、シャーリーも取材? それとも何か企んでる?」
「心外ですぞ。自分はただの客ですからな~」
「……お前のネタは、悪魔神官団のマッチポンプが多くて困る」
編集長は額を押さえた。
「うぷぷ、今回は本物だよ~?」
「その台詞を聞いて、何度書き直したと思ってる」
「でも、今回は裏が取れてるんだってば!」
ダキニラが机に資料を広げる。
編集長はそれを手に取り、サングラスの奥で目を細めた。
「……なるほど。こいつは確かに面白い」
「でしょ~?」
「ただし、記事にする前にもう一度調べろ。お前の『確実』は、たまに神様の気まぐれまで含んでるからな」
「幸運の女神さまがついてるんだから、大丈夫だよ~!」
「その女神さまに、誤報の責任まで取ってもらえるなら苦労しねえ」
シャーリーは隣で、ふひひ、と笑った。
「兄上、こちらも少々ご相談がありましてな~」
編集長の手が止まった。
「……妹よ。お前もか」
「はい♪」
「……で、そちらのお嬢さんは?」
編集長の視線がチェルキーに向いた。
チェルキーは机の隅に置かれた瓶を見つめていた。中には、見慣れない赤褐色の香辛料らしきものが詰まっている。
「これ、何ですか? すごくいい香りがしますね!」
「おい、それは商品見本だ。勝手に開けるなよ」
「えっ、商品見本ですか? どこで採れるんです? 乾燥させたものですか、それとも加工品? これ、煮込み料理に使ったら面白そうですね!」
チェルキーの目が輝く。
編集長は一瞬、言葉を失った。
「……お前さん、何をしに来たんだ?」
「え? お友達と一緒に来たんですけど……あ、これ、仕入れ先を教えてもらえませんか?」
シャーリーが、ふひひ、と笑う。
「兄上。どうやら今日は、食材のほうが本題になりそうですな~」
「……お前の連れは、そっちも厄介なのか」
編集長はサングラスを押し上げ、深々と椅子にもたれた。
「分かった、飯にしよう。話も食材の話も、そのあとだ」
こうして今日も、新聞社の編集長室では、記事になる前から厄介事が増えていくのだった。
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