神の試練と、灰色の祈歌（グレイ・ヒム）
2025-06-30 02:33:11
対象年齢：全年齢
デイリー入賞： 5 位
ウィークリー入賞： 60 位
参加お題：音楽
プリーストにして盗賊、なおかつバードであるリリスに神託が下ります。
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焚き火の灯りが、橙の円を描いていた。
任務は終わった。吸血鬼は灰となり、夜が森を包む。
「ふーっ……今回の任務はキツかったけど、大成功だったね！」
ダキニラが尻尾をぱたぱた揺らして笑う。
「うむ。今回の戦いは壮絶だった。我々ホーリーレイダースの勇姿、オペラにでもできそうだ」
チャーリーが肩にかけたマントをひるがえし、やけに気取った口調で言った。
その言葉を聞いた瞬間、銀髪のハーフエルフ、リリスのこめかみに青筋が浮かぶ。
「はぁ？ 誰がそんなもの歌うってのよ。私はね、そもそも――」
そのとき、空気がふっと揺れた。
風も無いのに、周囲の草木がざわめいた。
どこからともなく、夜空の奥から響く声――ファラリアの神託が降りる。
『歌曲は由来神への捧げものなり』
（訳：それ、面白そう。歌え。お前が）
「またかよ……！ なんでそうなるのよ！」
リリスが天を睨みつけると、再び神の声が木霊した。
『汝が意は我の鏡』
（訳：いいから歌え。ぶつくさ言わず、あんたの言葉が一番面白い）
その神託は、なぜか宗派の違うはずのダキニラにもチャーリーにも聞こえていた。
「聞こえちゃったね……これはもう止まらないよ」
ダキニラが困り笑いを浮かべる。
「さすが神託、趣味が悪い」
リリスは肩を落としつつも、腰を上げる。
焚き火の音が消え、森の音さえ遠ざかったように感じた。
リリスが静かに目を閉じる。そして――
その場の空気が変わる。
口元に手を添え、そして高らかに歌い出す。
♪
また始まる 泥にまみれた朝
光を掲げるつもりもないのに
なぜ私は この戦場に立つ
神よ これは何の試練ですか
誰もが笑い 誰もが叫ぶ
パンを盗んで祝福を語る
そんな仲間と 旅を続ける
それでも私は 見捨てられない
天より響く 声が言う
「歌え、怒りも祈りも」
剣ではなく 旋律で語れ
我が言葉を 光とせよ
ああ闇よ ファラリアよ
我が胸に 確かにあるのは
絶望でも希望でもなく
ただ、運命という 静かな炎
仲間たちよ 勝手にしなさい
それでも私は歌いましょう
これは祈り、これは刃
これは我が 神への奉仕
静寂が戻る。
誰も何も言えないまま、夜風だけがリリスの銀髪を揺らしていた。
やがて、リリスはそっと吐息をつき、背を向けた。
「……ったく、こういうのは趣味じゃないんだけどね」
チャーリーが感心したように呟く。
「いや、実に美しかった。語り継ぐに値する旋律だ」
ダキニラは尻尾を立てながらぽつりと一言。
「神様、絶対あれ楽しんでたよね……」
そして、三人はまた歩き出す。
夜の帳の中を、どこか気まずく、でも確かに絆を深めながら。
――その歌は、神だけでなく、きっと夜風さえも覚えていた。
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降伏勧告のバラードが聞きたくなりましたわ！
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