#終章・後日談 名もなき明日へ
2026-07-08 02:00:00
対象年齢:全年齢
王都の影が暴かれた後も、すべてが正しく記録されたわけではなかった。
北方任務にまつわる記録や灰鴉団の名も、やがて別の事件の中へ埋もれていく。
白銀の騎士エレナの戦いもまた、王都の正史には残らなかった。
それでも、彼女が守ったものは確かにあった。
リオネルは、王都を去る前にエレナへ短く告げた。
「俺は人を斬り過ぎた。
お前はもう、俺とともに歩く必要はない」
エレナは何も言わず、ただ兄を見つめていた。
リオネルは少しだけ目を細める。
「エレナ。お前は、お前の道を歩け」
それが、王都を去る前に兄妹として交わした、最後の言葉だった。
リオネルはその後、黒衣の騎士として歴史に名を残すことはなかった。
だが辺境の小さな村に、寡黙な剣の師がいたという記録がわずかに残っている。
子供たちに剣を教え、村の自警団を率い、決して自分の過去を語らなかった男。
その剣筋だけが、かつて北方を駆けた黒衣を思わせたという。
エレナもまた、王都の記録からは静かに姿を消す。
白銀の遍歴騎士としての戦いは、誰かの都合のよい物語に置き換えられた。
けれど彼女は、もう兄の背を追う少女ではなかった。
やがてエレナは故郷の町へ戻り、家族を得る。
二人の子に恵まれ、剣を壁に掛けたまま、穏やかな日々を過ごした。
時折、子供たちに頼まれて木剣を取ることはあったが、彼女が過去の戦いについて語ることはほぼなかったという。
歴史には残らない。
しかし雪の果てで兄妹が見つめた先には、確かにその後の人生が続いていた。
白銀の遍歴騎士エレナ 終
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