元気巡礼(げんきじゅんれい)
2026-07-15 02:13:38
対象年齢:全年齢
参加お題:元気
「良いこのみんな!!
拙尼に少しだけ元気を分けてくだされ!!」
学院中庭に、シャーリーのよく通る声が響き渡る。
両手を天へ掲げたその姿は、どこか胡散臭く、それでいて妙に堂に入っていた。
黄金のホーリーライトが空へ伸びる。
幸運神の聖印――幾重もの黄金の《幸運の車輪》が静かに回転を始めた。
その周囲には、宗派を越えて集まった高位プリーストたち。
幸運神フォルティナのダキニラ。
暗黒神ファラリアの司祭リリス。
至高神ファリアの巫女アセリア。
大地母神マーフィアの神官バルサム。
それぞれ異なる祈りが、互いを打ち消すことなく一つの術式へと編み込まれていく。
これは幸運神の市井のプリースト、シャーリーだけが完成させた学院独自の儀式。
《学院幸運巡礼》。
精神力譲渡によって集められた祈りを、学院全体へと巡らせる祝福の術式である。
派手な奇跡は起こらない。
だが一年を通して、
事故が少し減る。
実験が少し成功しやすくなる。
落とし物が少しだけ持ち主へ戻りやすくなる。
そして何より――
人々が、ほんの少しだけ前向きになる。
それだけの、小さな幸運。
けれど学院では、その「少し」が何より大切だった。
翌朝。
学生たちは笑顔で登校し、
食堂はいつもより賑わい、
新聞はよく売れ、
炊き出しの鍋は空になり、
誰も気付かないほどささやかな幸運が、学院中を巡っていた。
学院本館の屋根の上。
紅茶を口に運びながら、その光景を見下ろえる黒髪の助教が一人。
肩に止まった小鳥は、逃げる気配もない。
「ふひひ……。」
長い黒髪が朝風に揺れる。
「効いておりますな。」
その呟きを聞いた者は、誰もいなかった。
学院に満ちる小さな幸運は、今日も静かに、人から人へ巡っていくのだから。
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